当会の目良浩一代表のレポートが産経ニュースに掲載されました。ご紹介します。
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産経ニュース 平成28年(2016年)7月4日
【目良浩一の米西海岸リポート(3)】
リトル・トウキョウの老人施設売却は日系人社会の亀裂を露呈しました 背後には不穏な勢力が…
http://www.sankei.com/premium/news/160704/prm1607040001-n1.html
■ リトル・トウキョウの高齢者施設は日系人の財産だった…
日本から米国への移民は19世紀後半から始まり、1924年の米政府による日本人移民禁止令まで続きました。現在の在米日系米国人は3世から5世が中心です。
一世と呼ばれた日系人たちは、ロサンゼルス中心部に「リトル・トウキョウ」を作りました。61年には8人の著名な日系人が主導、協力して老人のための居住施設を設置しました。この施設は、70年代に居住者が自立して居住できる施設、ある程度の看護の必要な人たちの施設、そして常に看護が必要な人たちのための施設などの4つの異なる施設になり、計600人強を収容できる施設に成長しました。
施設では日本の文化が維持され、日本食が提供され、日本語で生活できるという環境が維持されてきました。この施設は、日本の財界をはじめ、日本企業や一般人からの寄付金などの浄財によって建設され、そして多くの人のボランティア活動によって運営され、存続されて来ました。在米日系人が誇ることができる貴重な財産でした。
■ 営利企業に売却されるとどうなるか…
ところが、施設の運営を担っている非営利団体「敬老シニアヘルスケア」の理事会の考えは異なっていたようです。
理事長のショーン・ミヤケ氏が4施設を不動産・開発を行う営利会社のパシフィカ社に売却するという発表をしました。施設設立の最後の著名人であるジョージ・アラタニ氏の逝去を待っていたかのように、同氏が亡くなった翌年の2014年のことでした。ただ、この時は売却価格をめぐって州政府から問題が出されて立ち消えになりました。
ところが、昨年9月にパシフィカ社と売買契約が成立したと正式に発表されました。施設は非営利団体でかなりの費用を寄付金で賄う体制なのに、営利企業のパシフィカ社が購入すればサービスはかなり異なった性格になることが考えられます。
敬老シニアヘルスケアとパシフィカ社の契約内容を検証してみると次のことが判明しました。
・売却価格は4100万ドル(約41億8000万円)
・5年間は現在のサービスを維持するが、その後の制約はなし
・最初の1年間はサービス料の値上げに制約あり
すなわち、5年後には土地使用も含めて全く異なった事業を始めることができるのです。都市センターに近く、夜景を見るにはもってこいの場所なので高級マンションに建て替えることも可能です。4つのうち2つが入っている主要施設は土地が5エーカー(約2万平方m)あるので土地利用の転換は十分に考えられます。
■ 売却反対運動が起きたものの…
売却の計画が明らかになると、ロサンゼルス周辺の日本人や日系米国人からかなりの反対の声が上がりました。日系米国人を中心として「敬老救済特別委員会」が結成され、売却反対運動が展開されました。日本人有志も集会を開き反対の意思を表明しました。
反対の主要な理由は、日系社会が築き上げてきた貴重な資産が失われることでしたが、ここで日系社会の隠れた亀裂が露呈することになりました。
ミヤケ氏らは、旧移民の日系米国人は現在では完全に米国人になっていて日本語や日本食のサービスは不要であること、そしてそうしたサービスが必要な戦後の移民である「新一世」については、自分たちとは関係がないので新しく日本から来た移民のために施設を維持する必要はないとする意見を表明したのです。
つまり旧来の日系人は新一世には、全く近親感を持っていないということが明らかになったのです。
非営利法人の売却には公聴会の開催が条件となっています。しかし、この事案で公聴会は開催されていません。この点について施設の売却を承認したカリフォルニア州司法長官に問い合わせたところ、「公聴会は免除して(施設売却の)許可を下した」との回答がありました。それも中国系の副司法長官からの回答でした。この決定は不当であるとして、敬老救済特別委員会が売却中止を法廷に訴えましたが、却下されました。
昨年11月には敬老救済特別委員会の主催で、新旧移民合同の大規模集会が開かれました。500人が参加し、州選出の連邦下院議員などの応援演説もあって反対派の気勢はあがりました。
しかし、連邦議会の議員といえども、州の決定には影響力はありません。結局、今年2月には売買契約が実行されることになってしまいました。
■ 売却の背後にある不穏な勢力
先に述べたように、日本人と日系米国人との間には亀裂があります。日本に住んでいる人は、日系米国人は親日であると思っているようですが、彼らは1942年の日米開戦後の日系人の強制収容所行きについては、日本が無謀にも真珠湾を攻撃したせいで日系人が大きな迷惑をこうむったと信じているので、一般的に親日的ではありません。
また、最近の新一世が裕福な生活をしていることも、苦労して財や地位を築いてきた旧来の日系人を反日にする要因にもなっているようです。現在の施設利用者の大多数は新一世で、彼らのために貴重な財産を残す必要はないと思っている日系米国人が多いのです。
敬老施設売却問題は、数多くの疑問を日本人と日系社会に投げかけています。
まず、ショーン・ミヤケ氏を中心とする理事会の不可解な動きです。敬老施設は赤字で、多額の寄付金が必要だと言われていました。ところが、蓋を開けてみると経営は黒字だったのです。
すると、施設売却後に残った資産をどのように使うのかという疑問が出てきます。ミヤケ氏らは日系の老人の福祉増進のために使うと言明していますが、具体的な使途は示されていません。今までの施設運営こそが、最も有効な老人の福祉の増進方法であると思えるのですが。
そのミヤケ氏は、売却から4カ月間、音沙汰がなく、まるで日系社会から消えてしまったかのようでした。ところが突如、6月28日になって、月末をもって理事長職を辞任すると発表しました。まったく無責任な行動です。
次の疑問は、この売却に関してどのような力が働いたかということです。前述したように、日本人や日系人にはさまざまな外的な力が働いています。施設を購入した会社はインド系の人が興した会社です。そして、認可を出したのは中国系の役人です。
マイク・ホンダ氏を含むカリフォルニア州選出下院議員16名が連名で売却に反対の意見を表明しましたが、売却阻止は不可能であることを見越しての人気取りのジェスチャーだったようです。
ホンダ氏を強力に推していた反日中国系の団体からは私個人に対して「このように応援しているのであるから、恩を仇で返すな」というメールが届きました。暗に、慰安婦像撤去を求める裁判を中止しろという意味のようです。
一方、日系人や日本人はまとまりに欠けていて、それらの圧力に対抗する十分な力を持っていないように思えます。日系人と日本人が対立するような状況になっていることは悲しいことです。
日本人に対する慰安婦攻勢に始まり、リトル・トウキョウにおける経営者交代から全米日系人博物館における慰安婦映画の上映、日系敬老施設の売却、高等学校の歴史教科書に「間違った慰安婦の記述を入れる」ことなど一連の動きを見ると、この地の日系社会に揺さぶりをかけて分断し、日系社会を壊滅させようとする大きな力が働いているのではないかとさえ感じます。
こうした状況が目の前で起きているのですが、ロサンゼルス総領事館を含む日本の外務省はハリウッドにジャパン・ハウスを設置して、アニメや日本食などのプロモーションをすることに熱中しているのです。
■目良浩一(めら・こういち) 1933年、日本統治下の朝鮮京城府(現ソウル市)生まれ。東京大学工学部卒、同大学院修了、米ハーバード大学で博士号取得。ハーバード大学助教授、筑波大学教授、南カリフォルニア大学教授などを歴任。米国在住。「歴史の真実を求める世界連合会」(GAHT)代表。米国慰安婦像撤去訴訟の原告の1人。共著に『マッカーサーの呪いから目覚めよ日本人!』(桜の花出版)。昨年6月には米国で「COMFORT WOMEN NOT ”SEX SLAVES”(慰安婦は性奴隷にあらず)」を出版した。